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定義:限定合理性とは
限定合理性(げんていごうりせい)とは、システムのある一部では合理的であるものの、より大きな文脈や、より幅広いシステムの一部として捉えたときには、合理的ではない意思決定や行動を導く論理のことです。 経済学者のハーバート・サイモンはこれを「限定合理性」の原則として説明し、ノーベル賞を受賞しています。
つまり「人が合理的な判断をしているといっても、それは限られた時間、情報、考える力の範囲での合理性でしかない」という考え方のことだよ。
例え話で考えてみよう
おかしを買うとき
- あなたは200円しか持っていなくて、おかしをどれにしようか考えています。
- いろいろなおかしを見ても、時間があまりないし、全部のおかしの値段や大きさをしらべることもむずかしいよね。
- だから、そのときにわかる情報の中で「これが一番いいかも!」と思ったおかしを買います。
でも、もしほかの人は、もっとおかしの種類や値段をよく知っていたら、ちがう選びかたをするかもしれません。たとえば「こっちのおかしのほうが安くて量も多いよ!」と知っていたら、ちがうおかしを選ぶかもしれませんよね。
どういうこと?
- 自分の持っている情報やしらべられる時間がすくないと、どうしてもその中でしかベストをえらべません。
- だから、自分が「これが一番だ!」と思って決めても、もしかしたら知らないことがまだあって、本当はもっといい選択があるかもしれない。
- このように、持っている情報や時間、考える力がかぎられているために、人はいつも“ベスト”とはいいきれない選びかた(限られた中での合理的な選びかた)しかできない、というのが限定合理性なんです。
限定合理性から発生するバカとあほの認知プロセスの違い
タイプ1:バカ
- 限定合理性がある可能性を認知しないで、自分の判断が合理的であり、他者の判断は不合理と決め込んだ上で、他者が不合理な判断をし続けることに対して怒りを投影する認知プロセスは「バカ」と位置付ける
タイプ2:あほ
- 限定合理性がある可能性を認知した上で、自分の限られた中での判断はあくまで限られた中での合理的なものであり、他の視点から見れば非合理である可能性を認知した上で、同じ事象に対して、判断が視点によって合理的なものにも非合理なものにもなるという構造自体を認知した際に、その認知プロセスを「あほ」と位置付ける。その際に、視点によって合理・非合理が食い違うことで、関係者双方にネガティブな感情が起こる際に、その感情の解消のよりどころとして「あほ」という構造のせいにすることは許容される
分かりやすい説明
「バカ」と「あほ」のニュアンス
- 「バカ」
- 相手の言動を自分と同じ基準で測り、「なぜこんなに非合理なのか?」と相手そのものに対して怒りや見下しの感情をぶつける。
- 限定合理性を考慮せず、自分の基準を絶対視している。
- 「あほ」
- 相手の非合理に見える行動も、視点のズレや情報不足といった構造上の問題だと認識する。
- ネガティブ感情は湧くが、それを**“仕方ないね、あほ(な構造)だよね”** と構造へ帰属させることで、当事者を必要以上に責めないようにする。
- 限定合理性を認める前提で、「行為者=絶対的におかしい」ではなく、「状況・構造においてはそうなってしまうのも分かる」というスタンスをとる。
組織における限定合理性の例
組織における限定合理性について、具体例を交えて説明します。
【新規プロジェクト立ち上げの例】
- 経営層の視点での限定合理性:
- 持っている情報:
- 市場の大きな動向
- 財務データ
- 競合他社の動き
- 見えていない情報:
- 現場の詳細な実施能力
- 技術的な具体的課題
- 顧客の細かいニーズ
- 中間管理職の視点での限定合理性:
- 持っている情報:
- チームの能力と状況
- 部門間の調整事項
- 予算の詳細
- 見えていない情報:
- 会社全体の戦略的意図
- 他部門の詳細な状況
- 長期的な市場予測
- 現場チームの視点での限定合理性:
- 持っている情報:
- 技術的な詳細
- 実装上の課題
- 顧客との直接のやり取り
- 見えていない情報:
- 全社的な優先順位
- 他チームの進捗状況
- 予算の全体像
【具体的な対立事例】
プロジェクトの納期設定において:
経営層:
- 判断基準:市場投入のタイミング
- 「競合に先行するため、3ヶ月以内にリリースが必要」
中間管理職:
- 判断基準:リソース配分と品質管理
- 「現在のリソースでは6ヶ月は必要」
現場チーム:
- 判断基準:技術的な実現可能性
- 「品質を確保するには最低8ヶ月必要」
この状況で起こりがちな問題:
- バカのパターン:
- 経営層:「現場は危機感がない」
- 中間管理職:「上層部は現実が分かっていない」
- 現場:「マネジメントは技術を理解していない」
- あほのパターン(建設的な対応):
- 各層の限定合理性を理解
- 情報共有の仕組みを構築
- 段階的なゴール設定
- 3ヶ月:最小機能版のリリース
- 6ヶ月:主要機能の実装
- 8ヶ月:完全版のリリース
【解決のためのアプローチ】
- あほとバカの概念理解
- 限定合理性の理解
- 限定合理性から発生するバカとあほの違いについての理解
- 情報共有の強化:
- 定期的なクロスファンクショナルミーティング
- 各層の制約条件の可視化
- 決定プロセスの透明化
- 段階的な意思決定:
- 完全な合意を求めすぎない
- 試行錯誤を許容する文化
- フィードバックループの構築
- コミュニケーションの工夫:
- 各層の「なぜ」を共有
- 制約条件の相互理解
- 共通目標の明確化
このように組織における限定合理性及び「あほとバカ」の概念を理解することで:
- 対立を個人の問題ではなく構造的な課題として捉える
- より建設的な解決策を見出すことが可能になる
- 組織全体の効率と効果を高めることができる
結果として、「バカ」による対立の悪化ではなく、「あほ」による建設的な問題解決が可能になります。